デジタル化の波が押し寄せる中、地方自治体もDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組むことが求められています。しかし、多くの自治体が抱えるIT化の課題や人材不足の問題は、DXの取り組みを進めるうえで大きな壁となっているようです。
今回は、「自治体DX」を推進するために必要な5つのステップと成功事例を紹介しながら、地域活性化に向けたデジタル化への取り組みについて解説します。
この記事では、以下のようなテーマを取り扱います。
このように、総合的なアプローチで自治体DXを進める方法を、基礎的なところからわかりやすく解説します。
これからの地方自治体が目指すべきデジタル化の方向性や、成功事例から学べるポイントを押さえましょう。自治体のご担当者に役立つヒントが満載ですので、ぜひ参考にしてください。
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自治体にとって、地域活性化や行政サービスの利便性向上のためには自治体DXは欠かせない要素の1つです。
まずは自治体DXとは何なのか、そしてなぜ自治体DXが必要といわれているのかを詳しく解説します。
自治体DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、地方自治体がデジタル技術を活用して業務改善や住民サービスの向上を図る取り組みです。
総務省は「自治体デジタル・トランスフォーメーション (DX)推進計画」の中で「自治体DX」を次のように説明しています。
政府において「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」が決定され、目指すべきデジタル社会のビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」が示された。
引用:『自治体デジタル・トランスフォーメーション (DX)推進計画』
政府の方針により、自治体は、デジタル技術や収集した統計データを活用して行政サービスの利便性向上や業務効率化を図ることが求められています。
自治体DX推進計画の対象期間は、2021年1月から2026年3月までです。
政府によって自治体DXが推奨されている理由や背景には、大きく以下の3つの要素が挙げられます。
それぞれについて解説します。
1.21 少子高齢化とアナログシステムの限界
少子高齢化により、行政サービスを担う自治体職員の若年層が減る一方、高齢者の社会保障や医療情報の管理に必要な業務が増えています。
それゆえ、従来のアナログシステムでは情報の抜け落ちや処理の遅延が生じる可能性が高まり、自治体のデータ管理と手続きをデジタル化して解決を目指す動きが加速しました。
1.22 迫る「2025年の崖」
経済産業省は、DXについて発表したレポートの中で「2025年の崖」という言葉を用いて自治体、そして日本全体の経済損失に警鐘を鳴らしました。
「2025年の崖」とは、DX化が遅れた場合、「2025年以降、最大毎年12兆円の経済損失が生じる可能性がある」との試算を表現する用語です。
引用:DXレポート ~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~(サマリー)
しかし、多くの自治体はこれまで長期間にわたって旧式の情報システムやソフトウェア(いわゆる「レガシーシステム」)を使用している場合が多く、自治体DXの推進を妨げる要因とされています。
1.23 コロナウイルス感染拡大により露呈したデジタル化の遅れ
新型コロナウイルスの感染拡大により、「ハンコ問題」など、行政手続きのオンライン化の遅れが露呈しました。
「ハンコ問題」における問題点は、第一に感染拡大によって在宅勤務が広がった中で、押印のためだけに出社が求められるなどの、無駄が多い点です。
さらに、押印を必要としてきた従来の自治体の業務や手続きに対して、承認や契約までのプロセスが遅い点も浮き彫りになり、問題視されるようになりました。
2020年に河野太郎行政改革担当大臣(当時)が「行政手続きの認印を全廃する」と発表し、注目を浴びました。
これらの背景を踏まえ、政府によって自治体DXが急速に推進されており、行政サービスをデジタル社会においてあるべき姿にデザインし直すことが求められています。
ここからは、自治体DXの推進に必要な5つのステップをご紹介します。
自治体DXを推進していくために最初に必要なステップとしては、行政のデジタル化の基盤を整備することが挙げられます。
まず、自治体の現行の業務システムを見直し、統合や効率化が可能なシステムに更新することが求められます。
次に、情報システムのクラウド化やデータセンターの活用を検討し、自治体が保有する各種データの保管や管理を効率化しましょう。
住民票発行などの各種行政手続きや、防災など行政システムと連携したWebサイト・アプリケーションの充実も重要です。
人口統計・防災情報や保育所・医療機関の一覧など、自治体が持つ様々なデータを一般に公開し、住民や企業が活用できるようにしましょう。
自治体などが保有するデータのうち、誰でも利用できる形で公開されたデータを「オープンデータ」といいます。2016年に「官民データ活用推進基本法」が制定され、政府によって、自治体はオープンデータに取り組むことが義務化されました。
自治体の持つ統計データなどの公開により、企業がオープンデータを活用して新たなサービスを展開し、地域の活性化につながると期待されています。また、オープンデータは住民の意見や要望を反映した政策立案にも役立つでしょう。
自治体DXを推進していくために、オンライン手続きの導入やIoT、AIを活用したサービスの提供が重要です。「IoT」とは、「Internet of Things」の略で、モノ(例えば、カメラや自動車、テレビなど)をインターネットにつなげて情報をやり取りする技術を指す用語です。
行政の手続きのオンライン化により、住民は自宅や職場から簡単に各種行政手続きの申請ができるようになります。これによって、住民の利便性が向上するだけでなく、行政手続きに関わる業務が効率化され、自治体職員の業務負担も軽減されます。
オンライン手続きは、インターネットに接続できればどこでも利用可能なため、災害発生時などの非常事態にも対応できる点もメリットです。
IoTやAIを活用すれば、生活支援サービスや医療・介護サービスの充実が可能となります。
自治体DXにおいて、IoT技術を活用して効率的な行政運営や住民サービスの向上が期待されています。
例えば、自治体がIoTを活用すれば、防災に役立つ情報の収集・分析の加速化や、高齢者施設でのケアロボット導入など介護サービスの充実が図れるでしょう。また、AIを活用した自動会話プログラム・チャットボットを導入すれば、住民からのよくある問い合わせに対して24時間対応可能な窓口が提供できます。
自治体DXを推進していくために、自治体職員の情報セキュリティに対する意識向上とセキュリティ技術の導入が大切です。
自治体は自らが使用する情報システムに対して、ウイルス対策ソフトの導入やパスワードポリシーの策定など、基本的なセキュリティ対策を整える必要があります。さらに、最新のセキュリティ技術やシステムを導入し、自治体の情報の安全性を確保しましょう。
効果的な自治体DXの推進のためには、住民との協力・連携が重要です。具体的には以下のような取り組みを指します。
自治体が積極的に行政サービスの情報や、イベント・災害などの情報をSNSを使って発信すれば、住民とのコミュニケーションがより円滑になります。また、住民からの意見や要望の受け取りが容易になり、より住民目線の公共サービスが提供できるでしょう。
そして、SNSで発信した情報のうち、どの情報が必要とされているのか、誰が見てくれているのかを分析し、デジタルマーケティングの強化に取り組みましょう。
発信した情報の見直しや改善をおこない、幅広く漏れなく、住民に適切な情報を届けることが大切です。Webサイトやアプリの改善・強化も合わせておこない、住民サービスの利便性向上を図りましょう。
住民が主体的に関われるプロジェクトやイベントを自治体が開催し、住民の意識向上や地域コミュニティの強化につなげましょう。また、住民の政策や行政サービスに対する意見をフィードバックできれば、自治体はより適切な政策立案やサービス改善に取り組めます。
地域企業と連携して、オープンデータの提供・活用を進めることが自治体DXのためのオープンイノベーションには必要です。
「オープンイノベーション」とは、自治体が外部の企業や団体と協力し、お互いのアイデア・技術を提供し合い、新しいサービスを生み出す手法です。オープンイノベーションの推進によって、これまでにない革新的なサービスや施策を、自治体の行政サービスに活かせると期待されています。
自治体と企業が協力すれば、様々な地域の課題が解決される場合があります。具体的には以下のようなことが考えられます。
また、自治体のデジタル化を促進するには、企業の技術やノウハウの活用も有効です。
例えば、企業が持つシステム開発に関する技術を活用すれば、行政手続きのオンライン化や公共サービスのデジタル化に役立ちます。
自治体が持つ人口統計や地理情報などのデータを公開し、住民や企業が自由に利用できるようにしましょう。これにより、新たなビジネスや公共サービスが生まれ、地域の活性化につながります。
具体的には、自治体が持つデータを民間企業が活用して、新しいサービスや事業を提供したり、行政の課題を解決するアイデアを共有できることが挙げられます。自治体は、外部の意見やアイデアを受け入れ、より多様な視点からのアイデアや知見を得られるでしょう。民間企業が提供する新しいサービスや技術を採用し、行政サービスの効率化や充実につなげていく姿勢が重要です。
ここからは、自治体DXを推進している自治体の取り組みに関する成功事例と、その効果を紹介します。
福岡市は、2019年から「脱ハンコ」を進め、2020年には約3,800種類の書類に対して「脱ハンコ」を完了しました。
2020年11月にはDX戦略課を設置し、住民の声を取り入れた「住民にとって使い勝手のよいオンライン申請」を目指して全庁的なデジタル化に取り組んでいます。2021年4月には、住民票・高齢者乗車券・税務証明書などの手続きのオンライン化を実現しました。
また福岡市は、2012年から政令市初のLINE公式アカウントの運用を開始し、利用者一人ひとりにパーソナライズした生活密着型の「One to One」配信を実施しています。
このサービスでは、まず利用者に「防災・ゴミの日・子育て・お知らせ」の中から受け取りたい情報を選択できるようにしました。利用者の生活環境によっては不要な情報が届かないよう、利便性を大切にしたのです。
結果、サービス開始後2日間でLINEの友達登録が10万人を突破しました。
このように福岡市は、住民ニーズに応じた情報発信を中心に据え、行政サービスを身近で便利なものにするために自治体DXを推進しています。
横浜市が自治体DXを推進するためにおこなった取り組みは、AIチャットボットの導入や行政手続きのオンライン化などが挙げられます。
AIチャットボットの導入によって、24時間365日住民が行政に関する質問ができるようになり、住民サービスの向上につながっています。新型コロナワクチンについては専用のAIチャットボットを別途導入し、ワクチンに関する質問や、ワクチン予約をチャットボットから受け付けました。これによって、住民が気軽にワクチンについての情報収集や予約ができるようになり、新型コロナウイルスの感染拡大防止にも貢献したそうです。
行政手続きのオンライン化も、住民の利便性向上や業務効率化に大きく貢献しています。
横浜市では、スマートフォンからのオンライン申請により、住民票の写しや戸籍証明書などの書類が申請から1週間程度で自宅に郵送されるようになりました。その結果、書類の提出や受け取りにかかる手間や時間が大幅に削減されています。
住民税や固定資産税・軽自動車税などの納付もスマホ決済での受付が可能になっており、住民が手軽に納税できるようになりました。
横浜市は、これらの取り組みによって、住民サービスの向上や業務効率の向上を図り、自治体DXの実現に向けた大きな一歩を踏み出しました。
自治体DXを推進するにあたって、ITスキルを持つ職員の不足が課題となっています。
自治体には、行政サービスのデジタル化を進めていくために、外部から専門人材を招き登用したいというニーズがあります。しかし、外部のデジタル専門人材を任用している市町村はまだ多くありません。民間企業との連携も自治体にとっては重要な課題です。
自治体は積極的にIT人材の育成や採用をおこない、業務や行政サービスのデジタル化を推進するための人材基盤を整える必要があります。また、職員全体がAIやIoT、情報セキュリティなどのデジタル技術に対する理解を深めるための研修や教育が重要です。
行政サービスや住民サービスに関わる業務の効率化に加えて、自治体DXは地域経済の活性化に向けたマーケティング活動においても重要な役割を果たします。
自治体がデジタルマーケティングを強化し、発信する情報を分析・改善することで、住民サービスの利便性向上につながると先ほど説明しました。しかし、自治体がデジタルマーケティングを活用する効果はそれに留まらず、旅行客誘致や移住の訴求・ふるさと納税のPRの効果を高めることにもつながります。
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自治体DXは、現代社会において重要な課題です。政府によって、自治体には職員の効率的な業務遂行や、住民サービスの向上を実現するための取り組みが求められています。
今後の自治体DXの展開においては、さらなるデジタルサービスの提供や人材育成・セキュリティ対策の強化など、自治体による継続的な取り組みが求められます。地域の特性やニーズに合わせた柔軟なデジタル化に取り組み、よりよい自治体サービスを実現させていきましょう。